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日语阅读短文-ファン

来源: 2017-11-21 16:54

ファン(41)

古本屋に行って、偶々、自分の本が書棚にあるのを見るのは、作家にとってあまり気持ちのいいものではない。

特にそれが力をこめて書いた作品であると、

(どうして、いつまでも愛読してくれなかったのか)

という不満が一寸、心に起るのは止むを得ない。

自惚れるなと自分で言い聞かせてみるが、これは私だけでなく、すべての作家の気持であろう。

逆に新本屋に行って、たまたま、私の著書を買ってくれている人を目撃すると、非常に嬉しい気のするのも人情であろう。その人の本に悦んでサインをしたい衝動にかられるぐらいである。

逆に、しばらく私の本を取り出して、考えこんで、迷った揚句、また書棚に戻し、その隣のある別の本を買ってしまう読者をみると、

(チェッ)

と舌打ちをするのも当然の話だ。

作家など、聖人でも悟りをひらいた男でもないから、このくらいの感情は許してもらいたい。いつだったか、こんなことがあった。

Tホテルのティー?ルームでお茶をのんでいたら、一人の青年がつかつかと寄ってきて、「あの?????遠藤さんでしょうか」と声をかけてきた。

私は自分の読者だと思ったから、平生の仏頂面を捨てて、出来るだけ愛想よく、

「ええ、そうですよ」

「あの?????二十ほど、お話していいでしょうか」

「どうぞ、どうぞ」

ファンは大事にせねばならぬ。私はボーイをよび、紅茶をもう一つ、彼のため注文してやったのである。 ところが、この青年、

「遠藤さんは、北杜夫さんをよくご存知だそうですね」

「ええ、よく知っています」

「ぼくは、北さんの大ファンなんです。ですから北さんの話、聞かせて下さい。あの人は実生活でもあんなに楽しい人ですか。本を読むと実は魅力的ですねえ」

私のとってやった紅茶を飲みながら北、北と北の話ばかりする。

(チェツ)

真実、私は胸中、舌打ちした。この紅茶代、北にまわしてやろうかと思ったぐらいだ。

「北さんて写真でも魅力的ですね」

「そうですかね」

こちらは次第に仏頂面になっていく。

「あの人のマンボウもの、全部、持っているんです」

「そうですかね」

「実に、品のあるユーモアです」

「へえ。そうですかね」

「じや、ぼく、失礼しますけど」

紅茶を飲みおわると彼は礼儀正しく頭をさげて、

「ごちそうさまでした。どうぞ、北さんにお会いになったら、健康に気をつけて、ますます、作品を書いてくださいと伝えてくれませんか」

だれが伝えてやるもんかと、私はムッとした顔で彼を見送っていた。

あとで考えてみると、この青年、私にわざと嫌がらせをしたのかもしれぬ。

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