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遠交近攻

来源: 2017-12-12 15:44

 魏の策士范雎は他国に内通しているとの讒言から危うく命を殞しかけたが、同情者鄭安平に匿まわれ、秦の使者王稽に従って秦都咸陽に入った。しかし、「秦王の国は累卵により危し」という率直な言葉は喜ばれず、しばらくは得意の弁舌を振う機会もなかった。

  昭襄王の三十六年、待ちに待った機会が訪れた。当時、秦では昭襄王の母宣太后の弟の穣侯が宰相の地位を占め、絶大な勢力を持っていた。

  その勢力をいいことに斉を侵攻して、自分の領土の陶を拡張しようと企てたのである。これを知った范雎は、王稽を通じて王に文書を差出し拝謁を願いでた。

  「人主は愛する所を賞して悪む所を罰します。

  明主はこれとおもむきを異にし、賞はかならず有功に加え、刑は必ず有罪に下すのです。」

  にはじまる一文は、幸いに王の意にかなった。推薦者の王稽にもお褒めの言葉をたまわったほどである。

  いよいよ人払いをして引見してからは、へりくだって謹んで教えを請うのだった。

  范雎は言上する。

  「韓魏の両国を通り越してあの強い斉を攻められるのは策を得ておりません。少しぐらいの兵を動かしたところで斉はびくともしませんし、そうかといって大兵を出せば秦のためによろしくありません。なるたけ自分の国の兵を節約して韓?魏の兵を全面的に動員しようというのが王のお考えですが、同盟国を信用できないことを知りながら、人の国を越えて攻めるのはいかがでしょうか。斉の■王(びんおう)が楽毅に敗れた原因は、遠くはなれた楚を討ったために、同盟国の負担が重くなりすぎて、離反してしまったからです。そして天下のいい笑いものにされました。得をしたのは隣りの韓と魏で、いわば賊軍に兵を貸しあたえ、泥棒に食糧をあたえたようなもの。いま王が採るべき方法としては、遠い国と交わりを結んで、近い国を攻める、すなわち遠交近攻の策が一番よろしいかと存じます。一寸の土地を得れば王の寸土ですし、一尺の土地を得れば王の一尺の地ではありませんか。利害損失がこれほど明らかなのに、遠くを攻めるのは間違ってはおりますまいか。」と。

  以上は、ほぼ『戦国策」の「秦下、昭襄王」に拠ったが、『史記」の「范雎?蔡沢列伝」の文章もほぼ同文である。

  これから范雎は秦の客卿となり、さらに宰相に任じられたうえ、応侯に封ぜられ、軍事関係の仕事を一手にひきうけることになるのである。

  そして、以降遠交近攻の策は秦の国是として、ついに天下統一をもたらす指導原理の役割をはたすにいたったのだった。

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