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奇貨居くべし

来源: 2017-12-12 15:49

  時は戦国の末である。趙都邯鄲は国の衰えをよそに、中原文化の粋を集め、商業が盛んで、往来する諸国の人も多かった。韓の都陽テキの豪商呂不韋は商用でよく邯鄲に現われるのであるが、偶然、秦の太子安国君の庶子である子楚が、人質としてこの都に住んでいることを知った。

  話の様子では、どうやらひどく困っているらしい。それから数日、ふとこの商人の頭にすばらしい霊感が閃いた。

  ――この奇貨居くべし!(こいつは掘り出し物だ。取って置けばいまにえらい値が出るぞ。)

  不韋はなにか大きな投機をするようなつもりで、すぐさま子楚の荒れはてた屋敷を訪れ、

  「ひとつ、あなたのお宅をお盛んにいたしましょう。」

  と、突拍子もないことを言いだしたのである。冗談だろうと軽く受け流していた子楚も、

  「いえ、あなたのお宅がお盛んになれば、自然わたしどもの家も栄えるという寸法でして……。」

  というなにか深いわけのありそうな様子に、奥の間に招じいれた。

  呂不韋は声をひそめて、

  「よろしゅうございますか。昭襄王ももうお年ですから、やがてあなたのお父上の安国君さまが秦王におなりになりましょう。

  しかし正妃華陽夫人にはお子さんがありません。

  あなたも含めて二十数人ある庶子の方々のなかから、誰を太子におえらびになるでしょうか。

  正直な話、あなたは有利な立場にあるとは申しあげられません。」

  「その通りだが、今さらどうにも……」

  「問題はそこです。わたくしには金がございます。

  華陽夫人への贈り物や、ひろく人材を集めるための資金は出しましょう。

  直接秦まで行って、あなたを太子に立てていただくよう、運動もいたそうではありませんか。」

  子楚は手をとらんばかりにして、

  「もし君の言葉どおりになったら、いっしょに秦国を治めよう。」と、誓った。

  呂不韋の財力と雄弁は、ついに不遇な一介の庶子を太子とすることに成功したのである。そして自分の子を身ごもっていた趙姫を初心な子楚に嫁がせ、生れた子が始皇帝となったのであるから、呂不韋の野望は見事に達成されたといってよい。子楚という奇貨は、呂不韋の手もとにおかれて、ついに暴騰したのだった(?史記??呂不韋列伝).

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