《十二国记》月之影·影之海(上)第一章(2)
月の影 影の海(上) 十二国記
月之影·影之海第一章(2)
一章
2
陽子が通っているのは平凡な女子校だった。女子校であるということ以外、なんの特徴もない私立高校。父親が断固として選んだ学校だった。
阳子就读的是平凡的女子学校。这所私立高中除了是一所女子学校之外,根本就没有其他的长处。阳子会到这里就读也是她父亲自行决定的。
陽子の中学時代の成績は比較的よいほうだったから、もっと上のレベルの学校も|狙《ねら》えたし、事実教師は強くほかの学校をすすめたのだが、父親はゆずらなかった。家から近いこと、悪い気風も、反対に華やかな校風もないことが気に入ったらしい。
阳子中学时,成绩比较不错,要考上师资力量强的更好的高中也并不是很困难。但父亲却让她到离家近,校风严谨的这所学校就读。
最初は模試の成績表を見て|惜《お》しそうにしていた母親も、すぐに父親に賛成した。両親がうなずけば陽子には選択の余地がない。すこし離れたところに制服が気に入っている学校があったが、制服にこだわってダダをこねるのも気がとがめたので、だまってそれにしたがった。そのせいかどうか、入学して一年になろうとしている学校には、今も特に愛着がわかない。
最初的模拟考试成绩并不理想,但因为父母都认为这所学校比较好,父亲又特别坚持,所以阳子连选择的余地都没有。她现在身上穿的制服是一年级入校时的制服,也是阳子最喜欢的衣服。
「おっはよー」
"早上好。"
陽子が教室に入ると、あかるい声がした。二、三の女の子が陽子にむかって手を上げている。なかのひとりが駆けよってきた。
阳子一进教室就大声道了声"早安!"。有两三名女学生向阳子挥手致意,其中一名还向阳子跑了过来。
「|中嶋《なかじま》さん、数学のプリントやってる?」
"中岛同学,数学课本带了吗?"
「うん」
"恩。"
「ごめーん。見せて」
"不好意思,借看一下。"
陽子はうなずく。窓際にある自分の席についてからプリントを引っぱり出した。数人の女の子が机のまわりに集まって、さっそくそれを写しはじめる。
阳子点点头,走到窗边自己的座位上后,马上拿出了课本。几个女孩子也立刻围着桌子,开始写着自己的作业。
「中嶋さんってまじめなんだねぇ。さっすが、委員長」
"中岛同学真的很认真啊,果然不愧是班长。"
言われて陽子はあいまいに|微笑《わら》う。
她的话让阳子微微笑了一下。
「ホント、まじめ。あたし宿題なんてきらいだから、すぐ忘れちゃう」
「そう、そう。やろうと思ってもよくわかんないし。ダラダラ時間かかって、それで眠くなっちゃうんだよね。頭のいいひとはいいよなぁ」
"真的,很认真。从来不会浪费时间,睡觉也很准时,也不会出去玩。而且成绩还是那么好,头脑好的人真是好啊。"
「こんなの、一瞬で終わっちゃうんでしょ」
"就是啊,像作业这样的问题一会儿就解决了。"
陽子はあわてて首をふる。
阳子慌张的直摇头。
「そ、そんなことない」
"没,没有的事。"
「じゃ、勉強が好きなんだ」
"那,你喜欢学习吧!"
「まさか」
"不是吗?"
陽子は笑ってみせた。
阳子笑了一下。
「うち、母親が厳しくて」
"我,我母亲很严厉。"
それは事実ではなかったが、こう言っておいたほうがカドがたたない。
她说的是事实,并没有其他的意思。
「寝る前にいちいちチェックするから、いやになっちゃう」
"睡觉前要一道道检查,所以没办法偷懒。"
母親はむしろ陽子が勉強することをきらう。成績などどうでもいいというわけではなかったが、塾に行く時間があったら家事を覚えなさい、というのが母親の言い分だった。それでもまじめに勉強をするのは、好きだからというわけではない。ただ教師に|叱《しか》られるのが怖いからだった。
母亲对阳子的学习要求很严格。成绩无论如何都不能退步。母亲说:"与其学做家事,还不如去补习班的好。"所以阳子才会很认真的学习,喜欢与否根本就不重要。而且,成绩不好时,老师的训斥也是很可怕的。
「ひゃあ。教育ママなんだ」
"呀,真是一位重视教育的妈妈。"
「そうなの。勉強、勉強ってうるさくて」
"就是啊,一天到晚念着学习,学习的。"
「わかる、わかる。ウチもだよぉ。人の顔見ると、勉強ってさぁ。自分はそんなに勉強が好きだったのか、ってーの」
"知道,知道。我家也一样啦。一见我就嚷着要我学习。我自己可没那么爱学习啊。"
「だよね」
"是啊。"
どこかほっとしながら陽子がうなずいたとき、女の子のひとりが小さな声をあげた。
正在阳子点头之际,一个女孩很小声的叫了一声。
「あ、|杉本《すぎもと》だ」
"啊,是杉本。"
教室にひとりの少女が入ってくるところだった。
教室里走进来一名少女。
チラチラと全員の視線が向けられて、そうしてすぐに離れていった。しんとそらぞらしい空気が流れる。
大家的视线纷纷转向她,然后又迅速离开。寂静和装模作样的空气在教室里流动。
その生徒を無視するのが、ここ半年ほどクラスではやっている遊びだった。彼女はそんなクラスの|様子《ようす》を上目づかいに見わたしてから深くうつむいた。おずおずと陽子のほうに歩いてくると左隣の席に腰をおろす。
这个女孩成天一个人看着书,也无视学校的纪律,在这个班上足足半年之久也没主动和别人说过话。就因为她是这样子,给人一种非常目中无人的感觉。这样的她小心翼翼的走到阳子左边的位子后弯下腰。
「中嶋さん、おはよう」
"中岛同学,早上好。"
遠慮がちに声をかけられて陽子はとっさに返事をしそうになり、あわててそれをのみこんだ。いつだったか、うっかり返事をして、あとでクラスメイトに皮肉を言われたことがある。
她用非常客气的声音向阳子道了一声"早",而阳子也立刻回答了她,但惊慌的神情一目了然。一不留神回答的结果居然换来同学们的冷嘲热讽。
それでもだまったまま気がつかなかったふりをした。くすくすと周囲でしのび笑いがおこる。
虽然阳子什么也没说,但依旧感觉很不舒服。周围传来阵阵窃笑让她很难受。
笑われたほうは傷ついたようにうつむいたが、物言いたげに陽子に視線をよこすのをやめなかった。それを感じながら、陽子は周囲の会話に相づちをうつ。無視される彼女を哀れに思うけれど、情けをかけて周囲に逆らえば今度は自分が被害者になる。
比嘲笑更伤人的视线使阳子不得不低下头,包含着非议的视线不断的向她投射过来。因为有这样的感觉,所以阳子继续跟身旁的其他人说着话。虽然觉得被自己无视的她很可怜,但如果自己不这样做的话,今后就会被其他人排斥而成为另一个受害者。
「あの……中嶋さん」
"那个……中岛同学。"
隣からおずおずとした声が聞こえたが、陽子はこれにも気がつかなかったふりをした。故意に無視する気分はにがい。それでも陽子には、ほかにどうすればいいのかわからなかった。
「中嶋さん」
彼女は|辛抱《しんぼう》づよく何度もくりかえす。そのたびに周囲の声がとぎれ、やがてその場に集まっていた全員が彼女のほうに冷たい視線を向けた。陽子もそれ以上無視することができなくて、上目づかいに自分を見ている相手に目を向ける。視線を向けたが、返答はしなかった。
显然,那个女孩的忍耐力是相当强的。她又叫了阳子一声。这次,周围的声音嘎然而止。在场的所有人都将冰冷的视线投向她。阳子也不能再装作没听见了。她装出很藐视对方的样子,抬头望向她,没有回答。
「あの……数学の予習やってる?」
"那个……数学你有预习吧?"
彼女のおずおずとした声に、陽子の周囲がどっと笑いくずれた。
她唯唯诺诺的声音惹来周遭的一阵窃笑。
「……いちおう」
"……大致。"
「悪いけど、見せてくれない?」
"那,可不可以借我看一下?"
数学の教師は授業で当てる生徒を前もって指名する。そういえば彼女が今日指名されていたことを陽子は思い出した。
教数学的老师有在上课前提问的习惯。看来,今天轮到她了。
陽子は視線を友人たちに向ける。誰もなにも言わず、同じ色の視線でそれにこたえた。全員が、彼女を拒絶する陽子の言葉を期待しているのだとわかる。陽子はにがいものをのみこんだ。
阳子一边这样想,一边将视线投向身旁的朋友们。谁也没有说一句话,但她们的眼神却如出一辙。大家都希望阳子说出拒绝的话,这让阳子觉得很苦恼。
「まだ、見直しをしたいところがあるから」
"我还想再检查一遍,抱歉。"
|婉曲《えんきょく》な拒絶は観客の気に入らなかったようだった。すぐさま声がかかる。
婉拒的话才刚出口,马上就有人跟着起哄。
「中嶋さんって、やさしーい」
"中岛同学真是温柔啊!"
ふがいない、と暗に責めている声だ。陽子は無意識のうちに見をすくめた。別の生徒がそれに同意する。
不高兴的声音包含着责备的意味,其他的学生也表示同样的看法。阳子无意识的缩了一下身子。
「中嶋さん、ピシャッと言えばいいのに」
"中岛同学,说这种应付的话是解决不了问题的。"
「そうそう。あんたなんかに、声をかけられるの、迷惑だって」
"对,对。你刚才的话太含糊不清了。"
「世の中にはハッキリ言わないとわからないバカっているからさぁ」
"这个世界上有些事不说清楚,那些笨蛋是听不懂的。"
陽子は返答に困る。周囲の期待を裏切る勇気は持てないけれど、同時にまた、隣の席でうつむいているクラスメイトにあえてひどい言葉を投げつける勇気も持てなかった。それで陽子はただ困ったように|微笑《わら》う。
阳子觉得很难回答。周围人的意思她不是不明白,她没有勇气反抗;可身旁的同学也不能对她太过分。这样的困扰让阳子只能无奈的笑了笑。
「……うーん」
"……恩。"
「ホントにら中嶋さんって、ひとがいいんだから。だから誰かさんみたいなのに、アテにされるんだって」
"中岛同学真的是个好人啊。所以说,有些人就不要太倚赖她了。"
「あたし、いちおう委員長だし……」
"明天,大概就是班长了的说……"
「当たるのがわかってるのに、やってこないほうが悪いんだって。そんな奴のめんどうまでみることないよぉ」
"对啊,有些讨厌的人还是不要来比较好。这种家伙从来都没见过。"
「そう。──だいいち」
"对,世界第一。"
と言った生徒は|酷薄《こくはく》な笑みをうかべた。
说话的那人露出了刻薄的笑容。
「杉本なんかにノートを貸したら、ノートが汚れるじゃない」
"如果把笔记借给杉本的话,连笔记本都会变脏的。"
「あ、それは困るかも」
"啊,那就麻烦了。"
「でしょお?」
"是吧?"
どっ、と再び全員が笑いくずれる。いっしに笑いながら陽子は視線のすみで隣の席の様子をうかがう。深くうつむいた少女は涙をこぼしはじめた。
随后,在场的所有人都笑了起来。和她们一起笑着的阳子将视线飘向邻座,一直低着头的少女眼里含着泪。
──杉本さんにも、責任はある。
杉本自己也有责任。
陽子はそう自分に言い聞かせる。誰もが理由もなく被害者を決めるわけではない。被害者になったからには、彼女の中にそれなりの要因があるのだ。
阳子不断的这样对自己说。没有人会毫无理由的欺负别人,被害人自己一定也有不好的地方。
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