蠅(日语小说连载)4
四
野末の陽炎(かげろう)の中から、種蓮華(たねれんげ)を叩く音が聞えて来る。若者と娘は宿場の方へ急いで行った。娘は若者の肩の荷物へ手をかけた。
「持とう。」
「何アに。」
「重たかろうが。」
若者は黙っていかにも軽そうな容子(ようす)を見せた。が、額(ひたい)から流れる汗は塩辛(しおから)かった。
「馬車はもう出たかしら。」と娘は呟(つぶや)いた。
若者は荷物の下から、眼を細めて太陽を眺めると、
「ちょっと暑うなったな、まだじゃろう。」
二人は黙ってしまった。牛の鳴き声がした。
「知れたらどうしよう。」と娘はいうとちょっと泣きそうな顔をした。
種蓮華を叩く音だけが、幽(かす)かに足音のように追って来る。娘は後を向いて見て、それから若者の肩の荷物にまた手をかけた。
「私が持とう。もう肩が直(なお)ったえ。」
若者はやはり黙ってどしどしと歩き続けた。が、突然、「知れたらまた逃げるだけじゃ。」と呟いた。
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