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日语阅读:彼は誰を殺したか(二)

来源: 2018-01-04 15:04

 或る朝、身なりのいやしくない紳士体の男が、西日比谷検事局にあわててとび込んで来た。人を轢いた。いやあの男が自分の車で自殺したというのだ。

  居合わせたH署の巡査が早速行って見ると、公園の検事局に相対している入口から約五十間ばかり中に行った道路に、おびただしい血汐を流してこれも一見紳士風の男が自動車に頭を轢かれて即死して居る。自動車は反対の帝国ホテル側の入口から左側を通行して来たらしく、西側に車首を向けて止って居る。

  「運転手はどこに居るのか」

  と聞かれて、とび込んで来た紳士は恐縮しながら、「実は僕自身運転して来たんです」

  と答えた。

  直ちに取り調べが開始され、紳士は一応H署に連行されたが一通りの取り調べによって即日帰宅を許された。

  加害者たる紳士は、某会社の重役で法学士伯爵細山宏、殺された紳士は某省の役人中条直一と判明した。

  細山伯の警察で述べた所によると、彼は毎朝其の時間に自宅から自身自動車を運転して必ずその場所を通り勤先に出る。丁度其の日は今までのクライスラーの代りにおろしたてのパッカードを運転して通った。昨年頃まではもっとおそく出かけたけれ共、今年になってからは健康の為というので割に早く出かける。そうしていつも日比谷公園を東から西、即ち日比谷門から霞門を抜ける順序だった。この日もいつもの通り走って来ると左側の鉄柵と車道との間の細い舗道の上を歩いて来る人を見た。此の儘進んでも無論衝突の憂えはないからと思って、念の為にクラクソンを鳴して進んで丁度その人とすれ違いそうになった時不意に、その男が車道によろよろと入って来た。むしろ飛び込んだ。ブレーキをかけたがどうすることも出来ない。仕方がないから、あわてて右にさけようと思って、ハンドルを右に切ったけれど及ばず、相手の頭を前右車輪にかけてしまった。

  その後、警察の調べた所によると、中条直一は別に自殺するような動機は認められなかったけれども最近では非常な神経衰弱に罹(かか)って居たから、かかることは在り得べからざることではないと云うことだった。

  然し、H署ではこの事件を「業務上過失致死事件」として、一件書類を区裁判所検事局に送って来たのである。

  伯爵細山宏が検事局から呼出を受けたのはそれから二週間程経てからであった。

  係りの大谷検事は、当時所謂バリバリの検事だった。検事の問に対して伯爵は警察で申し立てた通りの答えをした。

  「時に、あなたは、昨年T海岸で死んだ吉田豊という人のお兄さんですね」

  「そうです。吉田は私の実弟で、あの家の養子に行ったのです」

  「そうですか、それはお気の毒でした。しかし、とするとあなたは被害者の中条にも度々お会いになったことはあるわけですね」

  「はあ」

  「この日、むこうから来た紳士が中条だということは、この事故の起らないうちに判りませんでしたか。無論、後には被害者は僕の知っている男だと仰言ったそうですが」

  「いや、とっさの場合ではじめはよく判りませんでした」

  「そうですか、いやそれならそれでよろしい」

  対話は極めて円滑に進捗(しんちょく)した。凡てに渉って三時間たてつづけに調べられたが、ようやく一通りのことは終ったと思う頃、伯爵がきいた。

  「いかがでしょう、私は許されましょうか。私の考えでは自分には過失はないように思いますが」

  「私としては今は何も云う必要はないと思いますが、一応あなたの御身分に対して好意的に申しましょう。問題は、あなたの云う通りだとして、果して法律上過失があるかないかということなんですよ。あなたのいうことがほんとかどうか不幸にして立証すべき何物もない。死人に口なしで相手は死んで居る。又第三者で見た者が一人もないのです。従って少くもあなたの云われることを嘘だと立証すべき事実がないのです。そこであなたの今までの供述に従えば御安心なさい、この事件は不起訴になります。私はこの事件を不起訴にすることにきめました」

  「ありがとうございました。これで私も安心致しました」

  伯爵がよろこんでドアをあけて出ようとする時だった。不意に後から声がきこえた。

  「細山さん、しかしそれはあなたの計画通りに進んだわけじゃないですか、予期した通り、考えた筋書通りに!」

  細山伯爵はこの時ふりかえって大谷検事のすごい皮肉な微笑を見なければならなかった。

  「細山さん、事件は之ですんだのです。然し私は検事としてでなく、個人としてあなたと少しお話したいのですがね」

  伯爵は思わず、もとの椅子に腰を下さなければならなかった。

  「伯爵、之は私が個人として云うことですよ。検事としていうべきことは終りました。だからもはや安心なさってよろしい。ただ私大谷一個人としてお話したいことがあるのです。

  私は自分の職業の立場から常に犯罪ということに興味をもって居ます。如何にして犯罪を捜査するかということは云わば如何にして犯罪を行うかという事を考えることです。だから私は事件を調べることに趣味があるばかりでなく、もし私が犯人だったらどうするか。又はどうしたかというようなことをいつも考えるのです。

  あなたは、よく、山や海で二人づれの一人が不慮の死をとげた際に、一回もこれを疑ったことはありませんか。私は自分が検事だからというせいか、いつもあれは妙に思うのです。成程殺人としては動機がない。しかし動機がないということはただ外に表われないというだけですからね。人間ですもの、内にどんなことを考えて居るか判るものではありませんよ。

  ところでもし此の場合、動機が表われたとしたらどうでしょう。殺人として検事は起訴出来るでしょうか。つまりそこですよ。丁度あなたの事件のように、第三者が全くない。被疑者のいうことをくつがえす証拠がない。従っていくら検事でもどうすることも出来ますまい。とすると、この方法は殺人として最も巧妙な方法だと云うことになります。

  扠(さて)、ここにある夏、二人の男が海に行った。そしてその一人が崖から落ちて死んだのです。すると丁度一年程たってから、その時のつれの男が、ある過失か自殺で、自動車に衝突しました。ところがその時その自動車を運転していた男はさきに死んだ人の兄だったという事実がここにあると仮定します。そう、これは一ツの仮説の例ですよ。

  この二つの事件を偶然であり得ないとは云えますまい。しかしこの事実の間に、ある連絡をとって考えられぬことはありません。

  伯爵。私と同じ役人をしていた男で、今探偵小説作家になってる人があります。このあいだ一寸会った時に、私はこういう二つの事件を彼に語って見ました。するとその男は、小説家らしい途方もない空想を語りはじめたのです。之からあなたに申し上げるのは、私よりむしろその男の考えを多くいうのですから一つ小説のつもりできいてごらんなさい。

  その男の云うのは、まず海で青年が死んだ事件を殺人事件だと考えるのです。少くもその時死んだ人間の親とか兄とか、要するに最も近い人には殺人事件だと信ぜられたと仮定するのです。動機は無論外には表われては居らぬけれども殺された青年の側に居る者、例えば兄などには必ず推測がつくでしょう。その小説家は此の二つの事実に対して兄が「弟は殺された」と確信したと、推測することが最も自然だというのです。もし仮りに兄が、そう信じたら彼は一体どうするでしょう。今云った通り、法律的には之をどうすることも出来ない。訴えたとて何にもならぬ。結局残る所は直接の復讐手段でしょう、そして彼の兄なる人が馬鹿でない限り、自分も法律的には何等の危険のない方法をとるでしょう。伯爵、実際この場合、彼は最も賢明な方法をとったのです。はじめの事件が殺人事件だとされていない限り、之に対する復讐も亦、動機が一般には判らないわけです。即ち二度目の殺人は動機が全然外部に表われていない点に於いて、第一の殺人事件と同じわけです。

  扠、ここで仮りにこの兄なる人の位置を定めて見ましょう。仮りに之が子爵某という人だとします。即ち社会的に相当地位ある人間だとしましょう。少くとも殺人事件の如きには最も嫌疑のかかりそうもない地位に居るのです。即ち云いかえれば、最も巧みに人殺しの出来る地位に居るとしましょう。此の子爵は、弟が殺されたと信じて以来、どうにかして相手をやっつけようと考えて居る。絶えず遠くからその行動を注意していると、相手は神経衰弱にかかって役目をひいてしまうと判る。ところで子爵は、毎朝自動車を自ら駈って日比谷公園を通るのです。偶然にも或る朝、子爵は相手がここを通るのを見ました。時々、一方は徒歩、一方は車で公園のあたりで摺れ違う。そのうち子爵は相手の時間が一定しているのに気付きます。健康上いいからという理由で時間をくり上げて相手と必ず会うようにしはじめました。

  ところで伯爵、あなたの事件で、私はその小説家に云われてから気が付いたのですがね。日比谷公園ともあろう所で、あの時分どうして誰も他に人が居なかったかということを調べて見たのです。すると妙なことを発見したんですよ。どういう理由か一寸判らないが、あの事件のあった個所は、日曜日の朝は別ですが、他の朝はある一定の時間――無論極く短い間ですが人通りが全く一時に途絶えるという事実、而もそれが丁度伯爵あなたがあの日あそこを通られた時間だ、という事実が判って来ました。伯爵、半年も同じ道をドライヴ[#「ドライヴ」は底本では「デライヴ」と誤植]して居たこの物語の子爵某氏にそれが発見されぬ筈はありません。

  扠、ここまで来て私はこの小説の中の子爵の考えを始めから辿って見ましょう。まず弟が殺されたと思う。ひそかに注意して見ると弟の仇たる某紳士が神経衰弱に罹って役所を休んでしまう。無論子爵は之を良心の苛責と信じるからその確信はますます堅くなる。そこで愈(いよいよ)復讐の決心をする。偶然或る日、日比谷公園のドライヴ中某紳士を発見する。いつか又出会(でっく)わす。之を知った子爵は某紳士の通る時間をはかって自動車を駈って摺れちがう。之から毎朝時間をいままでより早目に出る事にする。そうして半年の間二人は毎日のようにすれ違って居たわけです。之は子爵にとって二つの意味で重大であった筈です。一つは無論「仇の様子」を探る為です。

  他の意味は、もし某紳士が真犯人とすれば、子爵が殺した相手の兄だと知って居る彼にとって、毎朝偶然子爵に会うと云うことはたしかに一種の恐怖であり従って神経の弱って居るその男の態度に必ず変った所が見い出されるに違いない。そこで約半年子爵と某紳士とは摺れ違って居たとする。すると何日頃からか知らないけれども子爵はさっき云った妙な事実に気が付きはじめた、即ちある一定の時間に全く往来が途絶えるという事実.この事実が素晴しい手段を思い付かせたに相違ありません。

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