解放军文职招聘考试『味噌買橋(みそかいばし)』
―岐阜県―
むかし、あったと。飛騨乗鞍(ひだのりくら)の奥山(おくやま)深く分け入った中に沢上(そうれ)という谷があって、長吉(ちょうきち)という正直な炭焼きがおった。
ある晩げ、長吉の夢枕に仙人のような年寄りが現われて、
「長吉よ、高山(たかやま)の町へ行って味噌買橋の上に立っていて見よ。大層よいことが聞けるぞ」
と、教えてくれた。
「よいことと言ったら何じゃろ」
長吉は、暗いうちから焼いた炭を背負うと山坂を越えて行った。
町に着くと、道々炭を売り歩きながら味噌買橋をさがしてまわった。
ようやく見つけた橋は、いかだをつないで作った粗末(そまつ)なものだったと。何でも川向こうの味噌屋へ味噌を買いに行くのに掛けた橋だそうな。
長吉は、橋の上に一日立ちつくしたが何も聞けなかった。
二日三日四日も過ぎて五日目。
橋のたもとの豆腐屋の主が、不思議そうに長吉のそばに寄って来て問うた
「お前はどこのお人か知らんが、毎日、橋の上に立ってどうしたんじゃ。わしは毎日庭から見ておりましたがのう。はや、もう五日になるがな」
長吉が夢の話を聞かせると、豆腐屋は笑い出して、
「わしもこの間夢を見たんじゃ。年寄りが出てきておかしなことを言ったがな。何でも乗鞍の沢上というところに、長吉という男がおる・・・」
と、言いかけた。長吉は<ありゃ、おらのことを言ってる>と、たまげたが、顔には出さずに、「ふん、ふん」と聞いとった。
「『その男の家のそばの松の木の根を掘れ。宝物が出てくる』と言うたがの、わしは、沢上なんてところはどこにあるか知らないし、そんな馬鹿気た夢を本気にはせん。お前もいいかげんで帰ったらどうかの」
長吉は、これこそ夢の話にちがいねえ、とはやる心を押えて我家へ走って帰った。
庭の松の根っ子を掘ってみれば、金銀宝物がザクザク出てきた。
長吉は、いっぺんに金持ちになって、村の人から福徳長者と呼ばれて、一生安楽に暮らしたと。
しゃみしゃっきり。
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