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解放军文职招聘考试憂き身をさめぬ夢になしても

来源: 2017-10-05 13:45

 憂き身をさめぬ夢になしても
とおいいになった。宮が煩悶(はんもん)しておいでになるのも道理なことで、恋にくらんだ源氏の目にも、もったいなく思われた。源氏の上着などは王命婦がかき集めて寝室の外へもって来た。源氏は二条の院へ帰って泣寝に一日を暮した。手紙を出しても、例のとおりごらんにならぬという王命婦の返事以外には得られないのがひじょうに恨めしくて、源氏は御所へも出ず二三日引き籠っていた。これをまた、病気のように解釈あそばして帝がお案じになるに違いないと思うと、もったいなく空恐ろしい気ばかりがされるのであった。
 宮もご自身の運命をお嘆きになって煩悶がつづき、そのためにご病気の経過もよろしくないのである。宮中のお使いがしじゅう来て、御所へお帰りになることをうながされるのであったが、なお宮は里居つづけておいでになった。宮は実際おからだが悩ましくて、しかも、その悩ましさの中に生理的な現象らしいものもあるのを、宮ご自身だけには思いあたることがないのではなかった。情けなくて、これで自分は子を生むのであろうかと煩悶をしておいでになった。まして、夏の暑いあいだは起きあがることもできずにお寝(やす)みになったきりだった。ご妊娠(にんしん)が三月(みつき)であるから女房たちも気がついてきたようである。宿命の恐ろしさを宮はお思いになっても、人は知らぬことであったから、こんなに月が重なるまでご内奏もあそばされなかった、とみな驚いてささやき合った。宮のご入浴のお世話なども定ってしていた宮の乳母の娘である弁とか、王命婦とかだけはふしぎに思うことはあっても、この二人のあいだでさえ話し合うべき問題ではなかった。命婦は人間がどう努力しても避けがたい宿命というものの力に驚いていたのである。宮中へは、ご病気やら物怪(もののけ)やらで気のつくことのおくれたように奏上したはずである。だれもみなそう思っていた。帝はいっそうの熱愛を宮へお寄せになることになって、以前よりもおつかわしになるみ使いの度数の多くなったことも、宮にとっては空恐ろしくお思われになることだった、煩悶の合間というものがなくなった源氏の中将も、変った夢を見て夢解きを呼んで合させてみたが、およびもない、思いもかけぬ占いをした。そして、
「しかし、順調にそこへお達しになろうとするのには、おつつしみにならなければならぬ故障が一つございます」
といった。夢を現実にまざまざつづいたことのようにいわれて、源氏は恐怖を覚えた。
「私の夢ではないのだ。ある人の夢を解いてもらったのだ。今の占いが真実性をおびるまでは、だれにも秘密にしておけ」とその男にいったのであるが、源氏はそれ以来、どんなことが起ってくるのかと思っていた。その後に源氏は藤壺の宮のご懐妊(かいにん)を聞いて、そんなことがあの占いの男にいわれたことなのではないかと思うと、恋人と自分のあいだに子が生れてくるということに若い源氏は興奮して、以前にもまして言葉を尽して逢瀬を望むことになったが、王命婦も宮のご懐妊になって以来、以前に自身が、激しい恋に身を亡(な)くしかねない源氏に同情してとった行為が、重大性をおびていることに気がついて、策をして源氏を宮に近づけようとすることを避けたのである。源氏は、たまさかに宮から一行たらずのお返事の得られたこともあるが、それも絶えてしまった。
 初秋の七月になって、宮は御所へおはいりになった。最愛の方が懐妊されたのであるから、帝のお志はますます深く藤壺の宮にそそがれるばかりであった。すこしお腹がふっくりとなって、悪阻(つわり)の悩みに顔のすこしお痩せになった宮のお美しさは、前よりもましたのではないかと見えた。以前もそうであったように、帝は明け暮れ藤壺にばかり来ておいでになって、もう音楽の遊びをするのにも適した季節にもなっていたから、源氏の中将をもしじゅうそこへお呼び出しになって、琴や笛の役をお命じになった。もの思わしさを源氏は極力おさえていたが、時々には忍びがたいようすもうかがわれるのを、宮もお感じになって、さすがにその人にまつわるものの憂(うれ)わしさをお覚えになった。
 北山へ養生に行っていた按察使(あぜち)大納言の未亡人は、病がよくなって京へ帰って来ていた。源氏は惟光などに京の家をたずねさせて時々手紙などを送っていた。先方の態度も、春も今も変ったところがないのである。それも道理に思えることであったし、またこの数月間というものは、過去の幾年間にもまさった恋の煩悶が源氏にあって、他のことは何一つ熱心にしようとは思われないのでもあったりして、より以上積極性をおびていくようでもなかった。
 秋の末になって、恋する源氏は心細さを人よりも深くしみじみと味わっていた。ある月夜に、ある女のところをたずねる気にやっとなった源氏が出かけようとすると、さっと時雨(しぐれ)がした。源氏の行くところは六条の京極(きょうごく)辺であったから、御所から出て来たのではやや遠い気がする。荒れた家の庭の木立(こだち)が、大家(たいけ)らしく深いその土塀(どべい)の外を通るときに、例の傍去(そばさ)らずの惟光がいった。
「これが前の按察使大納言の家でございます。先日、ちょっとこの近くへ来ましたときに寄ってみますと、あの尼さんからは、病気に弱ってしまっていまして、何も考えられませんという挨拶がありました」
「気の毒だね。見舞いに行くのだった。なぜそのときにそういってくれなかったのだ。ちょっと私が訪問に来たがといってやれ」
 源氏がこういうので、惟光は従者の一人をやった。この訪問が目的で来たと最初いわせたので、そのあとでまた惟光がはいって行って、
「主人が自身でお見舞いにおいでになりました」

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